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産業用太陽光発電はFIT終了の20年後どうなる?6つの対策を解説
産業用太陽光発電の未来について、多くの方が関心を持っています。産業用太陽光発電のFIT制度(固定価格買取制度)においては、10kW以上の設備に対し、20年間固定価格で買取することが保証されていますが、その期間を過ぎた後の買取価格については保証されていません。このような背景から、産業用太陽光発電の導入を検討している際、20年後の未来がどのようなものになるか、また、その時にどのような対応をすべきかについて不安を感じる方も少なくありません。
そこで、本記事では、既に産業用太陽光発電を所有している方や、これから導入を検討している方向けに、制度の終了後に直面する状況や選択肢について詳しく解説します。制度終了後の運用方針について迷っている方は、この記事を参考にして、今後の方向性を検討してみてください。
産業用太陽光発電のFIT制度(固定価格買取制度)とは?
FIT制度(固定価格買取制度)は、2012年に導入されました。太陽光発電を含む再生可能エネルギーによって発電された電力を、20年間の固定価格で電力会社が買い取るというものです。この制度が始まってからまだ20年が経過していないため、制度が開始した2012年の初年度にFIT制度の承認を受けた設備においても、2024年3月現在の時点では、その期間が満了していません。なお、このFIT制度による買取費用は、国民が支払う電気代に含まれる賦課金を通じて補填されています。
20年後、産業用太陽光発電の売電はどうなる?
FIT制度(固定価格買取制度)によって保証されている20年間の買取期間が終了した後について、不安を抱えている方は多いでしょう。買取期間終了後は、電力会社に売電する義務がなくなります。しかし、当然ですが設備の所有者としては、もし設備が発電可能であれば、引き続き電力を売りたいと考えています。
しかし、20年後の売電の可否については現時点では明確ではありません。継続して売電が可能になるとは予想されていますが、電力会社と条件を詰めて、合意する必要があります。売電価格や契約条件は電力会社毎に新たに設定されます。20年後の見通しは不透明であり、未来の市場状況や電力会社との交渉によって左右される可能性があることを理解しておく必要があります。
20年後も売電できる可能性
20年後の詳細な予測は困難ではありますが、政府の現在の方針を踏まえると、将来のエネルギー関連の展望を推測することができます。政府は2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにするという野心的な目標を掲げています。この目標達成に向けて、2030年度の電源構成においては再生可能エネルギーを36〜38%まで増やす計画を立てています。しかし、経済産業省が2023年11月29日に公表した「令和4年度(2022年度)エネルギー需給実績(速報値)」によると、再生可能エネルギーの割合はまだ21.7%にとどまっており、目標には遠く及ばない状況です。
再生可能エネルギーの中でも、太陽光が9.2%と最も大きな割合を占め、前年度から0.9ポイントの増加を見せました。水力は7.6%、バイオマスは3.7%、風力は0.9%、地熱は0.3%と続きますが、水力発電は設備容量がほぼ飽和状態にあり、風力発電も立地の制約が大きいため、太陽光発電が今後の成長の鍵を握っていると期待されています。
2030年の太陽光発電の目標は、発電コストを火力発電よりも低い、1kWhあたり7円にすることです。この目標は、産業用太陽光発電の普及と技術進化を促進する可能性があります。したがって、2012年に開始されたFIT制度は、20年後の2032年以降も、買取価格が下がる可能性はあるものの、完全に停止する可能性は低いと考えられます。
出典)令和4年度(2022年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)|経済産業省
20年後の売電価格と収益性
電力会社が20年後の買取価格をまだ確定していない状況では、売電価格が収益性に大きく影響します。この価格の変動には不確実性が伴いますが、今後を見据えた参考情報として、住宅用太陽光発電の状況を考慮することが有益です。
住宅用太陽光発電のFIT制度は、産業用とは異なり、固定買取期間が10年間と設定されていました。そして、一部の設備では既にこの期間が終了しています。電力会社はこれらの設備に対し、新たな売電契約プランを提供していますが、これらの価格は以前の固定価格よりも低くなっています。
産業用太陽光発電においても、将来的には同様に低い売電価格での契約となり、その結果として収益性の低下が懸念されます。この売電価格の下落は、維持管理費用などの負担が困難になるリスクを伴うため、十分な注意が必要です。
20年後、産業用太陽光発電はどうするべきか?
ここからはより具体的に、20年後に取るべき対策について解説していきます。
電力会社との継続契約
20年後に産業用太陽光発電の運営を継続する場合、売電金額とメンテナンス費用、その他の経費とのバランスを慎重に検討する必要があります。この際、電力会社との継続契約を選択することになれば、新たなプランが提供される可能性が高いです。各電力会社の将来の対応方針については、今から定期的に情報を収集しておきましょう。将来的により良い運営戦略を立てるための基盤となります。
新たな電力会社との契約
電力会社を変更することも一つの有効な手段として考えられます。このアプローチのメリットとして、異なる電力会社の売電価格を比較し、より高い価格を提供する新しい電力会社に変更できる可能性があります。そのため、既存の電力会社に限定されることなく、柔軟に比較検討することが重要です。
自家消費への転換
売電契約を結ばない選択をした場合、自家消費への転換を検討することをお勧めします。自家消費では、発電した電力を自社内で消費することで、電気料金の削減を実現します。特に法人向けの高圧電力契約を利用している場合、ピークシフトやピークカットを行うことで、さらに電気料金を削減することが可能です。
また、災害時や非常時の電力供給の確保という観点から、BCP対策としても有効です。このように、自家消費は経済的なメリットだけでなく、企業のリスク管理にも寄与するため、売電以外の選択肢として真剣に考慮する価値があります。
発電所の売却
太陽光発電所から十分な利益を得ることが難しい場合には、売却も選択肢の一つとなります。その際、土地のみを売却する場合には、撤去費用を自己負担する必要がありますが、発電所ごと売却する場合には権利を譲渡することになります。売却には様々なメリットがあります。売却益の獲得や負担からの解放、資金を次の投資に回すことも可能です。将来的な収益性や管理の負担に疑問を感じた場合には、太陽光発電所の売却を検討することで、新たな機会へとつなげることができるでしょう。
土地所有者への返還
土地を賃貸して産業用太陽光発電を行っている場合、固定価格買取期間が終了する20年後の選択肢は、賃貸契約内の条件によって左右されます。この時、更地にして土地を返却するか、あるいは引き続き売電を継続したい意向がある場合は、地主との相談が必要になることもあります。契約期間の終了が迫る直前に慌てることがないよう、計画的に運営方針を決めておくことが重要です。これにより、契約終了後の対応に迅速かつ柔軟に対応することが可能となります。
発電所の撤去
もし、これまで挙げてきた選択肢が難しい場合には、太陽光発電所の撤去も視野に入れなければならないかもしれません。調達価格等算定委員会(経済産業省)によると、太陽光発電所の撤去費用は1kWあたり約1万円と算出されています。特に産業用太陽光発電所の場合、撤去費用のための積立てが義務付けられており、適切な運用をしていれば、積立金に問題は生じないはずです。
しかし、コストをなるべく抑えるためには、設備の有価売却やリサイクルを通じて撤去コストを低減することが望ましいです。これらの措置によって、場合によっては利益を得る可能性もあります。
20年後も産業用太陽光発電の運用を続ける際に考慮するべきこと
20年後も産業用太陽光発電の運用を続けたいと考えられている場合には、維持費や設備の状態を含む様々なリスクを理解し、把握することが重要です。
売電価格と買電価格
産業用太陽光発電を続ける目的に応じて、売電価格と買電価格の確認は必須です。もし価格差が大きい場合には、電力会社からの電力購入を減らし、自家発電へ切り替えことを検討すべきかもしれません。このような切り替えによって、電力会社からの買電を削減し、結果としてトータルの収支を改善できる可能性が高まります。
老朽化するパネルと部材
太陽光パネルやパワーコンディショナには寿命があり、定期的な修理や交換が不可欠です。特に、20年後にも産業用太陽光発電所の運用を継続する予定であれば、これらの機器の交換工事を事前に検討することが非常に重要になります。機器の交換や修繕にかかる費用を含めた全体の収支を考慮して、運用継続の判断を下す必要があります。
新しい契約条件
電力会社と新しく契約を結ぶ際には、特に注意が必要です。たとえ同じ会社であっても、提供されるサービスの対象エリアやプランには違いがあることがよくあります。契約条件をしっかりと確認し、異なるオプションを比較検討した上で最終的な契約条件を決定してください。
費用と手間の把握
産業用太陽光発電所の撤去や売却を検討する際には、かかる費用と手間を事前に把握して、準備しておくことが大切です。例えば、撤去するのではなく売却を選択した場合、費用を抑えることが可能であり、場合によっては売却益により撤去費用やその他の費用をカバーできる可能性があります。
20年後に備えて行動するべきこと
最後に、FIT制度が終了する20年後に備えて今から検討しておくべきこと、準備しておくべきことについて解説します。
FIT制度が終了した後のことを事前に考えておく
FIT制度が終了後の運用方針について、20年を待たずに今から検討しておくことには大きなメリットがあります。事前に検討しておくことで、設備や土地の売却プロセスをスムーズに進められ、未来の市場規制や需要の変化に伴うリスクも事前に回避することが可能になります。
また、設備の老朽化によるメンテナンス負担を避けるためにも、早期に売却や撤去を検討することは有益です。FIT制度の終了後に売電を継続するか、撤去を選択するかを含め、さまざまな選択肢を事前に検討することは、将来にわたって適切な判断を下す上で有利となります。
新制度とルールの変更に注目する
2022年4月より新たに導入された変動価格制のFIP制度にも注目しましょう。この新制度では、売電価格が市場価格に応じて変動し、その上にプレミアム価格が加算されます。今後の運用における有力な選択肢の一つとなり得ます。
このように、産業用太陽光発電の運用方針を考える上では、新しい制度や市場の情勢の変化に柔軟に対応することが求められます。そのため、資源エネルギー庁の公式サイトなどを定期的にチェックして、最新の情報に基づいて運用方針を適宜見直し、改善していくことが重要です。
リスクを分散させる
産業用太陽光発電への投資を検討する際には、リスク分散が極めて重要です。これまでにFIT制度を利用して20年間運用した事業者は存在しないこともあり、過去の経験や既存の知識だけに頼ることはできません。さらに、将来の不確実性も考慮に入れる必要があります。そのため、産業用太陽光発電に限定せず、多様な投資オプションを検討することが賢明です。最悪の事態に備えてリスクを管理しながら、総合的な投資戦略を立てることが重要です。
まとめ
FIT制度による20年の買取期間が終了した後の産業用太陽光発電の運用について、確実な予測は困難です。しかし、政府のエネルギー基本計画に基づけば、買取価格が下がる可能性はあっても、完全に停止する可能性は低いと考えられます。
事業者にとって重要なことは、20年後をただ待つのではなく、今から買取価格の低下や新しい制度(FIP)の導入、ルールの変更などに備えた計画を立て、行動に移すことです。出口戦略としては、電力会社の独自プランでの売電継続、自家消費への転換、設備の撤去や売却などが考えられます。特に、全量を売電しているルーフトップ発電所では、自家消費への転換を検討すべきです。自家消費による電気料金の削減や環境経営による価値向上などのメリットを享受できます。
自家消費を行った際、具体的な導入効果に関しては、シミュレーションを通じて評価することが可能です。興味をお持ちの方は、産業用自家消費型太陽光発電シミュレーションツールの「SelFirst」をご活用下さい。
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